毎日モザイク

White Room Layout Works

2007-01-18T05:19:23+09:00 [Thu]
--> [遺跡]

本物のレイアウターはフチを恐れずに付ける。

もちろん、元ネタは、「本物のプログラマーgotoを恐れずに使う」なわけですが(w。

つい最近まで、フチ恐怖症だったのです。いや、切実に。

フチ付きの文字が嫌いだったのではなく、フチが恐かったのですよ。フチを付けるのが文字通り恐い。フチと聞いただけで微妙に震えるくらいでした。

フチの恐怖を味わったのは、忘れもしない、25歳の夏の事。

アダルトビデオのジャケットを作った時、裏面のキャッチコピーの指定に、何のためらいもなく「フチ M100+Y100」と書いたのでした。

翌日、製版屋さんに呼び出されました。

小さい製版屋さんで、社長直々に説教です。

「お前らは、簡単にフチとか書きすぎる。お前らは二文字【フチ】と書けばすむかもしれないが、こっちは大変なんだ。今からフチを付ける作業を見せてやるから思い知れ」

と言って、フチを作る作業を始めました。

原稿台に版下を乗せ、トレスコで僅かにピントをズラして、太らせ版を作ります。

製版用の感材は連続階調が出せない仕様のものなので、ボケ部分は、グラデーションではなく、太ったベタになります。

こいつを、フチ部分にして、中の文字を抜くわけです。

そこまでに、アレを反転して、コレを合わせてとか、めんどくさい作業があるのです。

そういう作業を半日くらい見せられてから、

「うちは、フチを付けるほどの代金はもらっていない。フチを付けるとか軽々しく書くな。フチなどいらない配色を考えるのがお前の仕事だ」

などと、延々と説教されたのでした。右手にはカッターを持ったまま(w。

若気の至りで「それをやるのがこちらの仕事では?」などと反論したものだから、更に説教でした……。

グラデーションをあんまし使わないのもここの社長に怒られたから。

グラデーションを作る機械が当時、既にあったと思うのですが(他の印刷所でいわれた事はなかった)、そこの製版屋さんにはなくて、グラデーションっていうならスクリーントーンを付けて来い。って怒られたのでした。

今でも色校に「版ズレ」とは絶対に書きません。まぁ、DTPで版ズレは出力系のバグとか、送りのスリップでもなければありえませんが……。

それもやっぱりここの社長。

色校に「版ズレ」と書いたら、呼び出されたのでした……。

「版ズレっていうのは、貼り込みがずれている時に使う言葉で、この色校の状態は見当ズレっていうんだ。版ズレはうちの責任だけど、見当ズレは印刷屋のせいだ。見当ズレなのに版ズレと書くとは失礼にも程がある」

手作業の時代は、たしかに「版ズレ」はあったので、「見当ズレ」に対して「版ズレ」と書いたのは失礼だったとは思いますが、その辺のズレ全般を指して「版ズレ」と呼ぶのは、当時でも割と普通になっていたと思います。なのに、このときは社長マジ切れしてました。

この社長に呼び出されたのは、フチ&グラデーションのときと、版ズレのときの二回。

それだけで、フチ、グラデーション、版ズレに対して恐怖心を抱くのに充分でした。

それ以来、21世紀になっても、フチもグラデーションも極力使わず、色校の校正用語には細心の注意をはらってきました。もちろん、社長に呼び出されないために(w。

ようやく、去年くらいから、フチが恐くなくなりました。

というのも、こちらの会社で、私の前にいた常勤のフリーの女の人が激しくフチを多用する人で、その路線で売れていたので、引き継いだものはその路線を継承するわけです。いやでもフチだらけ(w。

エロ本を見かける機会がある人は見た事があると思いますが、200Qくらいの大きさで「中出し」とか、400Qくらいの大きさで「DVD8時間」みたいなキャッチ。あの路線を始めたのがその女の人で、いわゆる天才です。それ以前にあの大きさの文字はほとんど見た事がありません。いまでは普通ですが、先駆者とは偉大なものです。

お陰でようやくフチの恐怖から解放されました。

付けた方が良さそうなときは、恐れずに付けます。どうせ付けるのは機械だし(w。

しかし、あの社長みたいな職人。いなくなったなぁ……。